硝子体内注射(抗VEGF薬治療)とは
加齢黄斑変性症や糖尿病網膜症など、網膜周辺の血流が阻害され、異常な新生血管が多発し網膜に影響を及ぼすような疾患では、従来は新生血管をレーザーで焼き固めてしまう治療を行っていました。
しかし、近年、この新生血管を生成する血管内皮増殖因子(VEGF)という物質の働きを阻害する薬が開発されて、抗VEGF薬による治療が行われるようになりました。
硝子体注射は、異常な血管の退縮を促す為、レーザー治療よりも侵襲が少ないのが特徴です。しっかり眼を消毒し、点眼麻酔を行った上で、直接白目の部分から注射で薬液を眼内に注入するもので、短時間で、傷みもほぼありません。
現在、抗VEGF薬として認可されているものはマクジェンとルセンティスなど数種類あります。当院ではその中でも信頼性の高いアイリーアとルセンティスを用いていますので安心して治療を受けていただくことができます。
ただし、この療法は効果の高いものではありますが、その後放置すると、いったん良くなったように見えても、再発する可能性もあります。定期的な健診と治療を続けて行くことが、良好な視力を保つために必要です。
抗VEGF薬治療が適応となる疾患
現在、抗VEGF薬治療の適応が可能な疾患は加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫)、網膜静脈閉塞症、強度近視(病的近視)による脈絡新生血管です。
加齢黄斑変性症
網膜の中心にあって、ものを精細に見るために重要な部分が黄斑です。この黄斑部の機能が加齢によって低下し、視力に障害がでるのが加齢黄斑変性症です。欧米ではこの疾患が中途失明の原因で第一位となっています(日本では緑内障が第一位です)。しかし、近年は日本でもこの疾患の患者数が増えており、注意が必要です。
この疾患の発症原因としては、日本人の場合、網膜の奥にある脈絡膜にできた新生血管が破れることなどが多く、50歳を超えると発症率があがってきます。血管に悪影響が多いためとくに喫煙者の発症率は高いといわれています。
加齢黄斑変性症の治療
抗VEGF療法
近年ポピュラーになった治療法で、新生血管を作る物質の働きを阻害する抗VEGF薬を硝子体内に注射します。
レーザー光凝固術
瞳孔を薬で開いた状態にして、できてしまった新生血管にレーザー光を当て、焼き固める療法です。
網膜静脈閉塞症
腎臓病や高血圧などによって網膜血管に動脈硬化が起こることがあります。網膜の静脈と動脈は近接しており、閉塞した動脈に押され静脈の血流が滞り血栓が生じます。血栓の為に血流が詰まり行き場を無くした血液やその内容物が血管外にしみ出し、網膜はその水分によってむくみ(浮腫)起こしてしまいます。これが網膜静脈閉塞症で、視力に異常がおこりますが、閉塞した部分や滲出した範囲などによって症状は様々です。
日本では50人に1人程度が発症すると言われています。40歳をすぎたころからはじまり加齢とともに発症率が上がります。
網膜静脈閉塞症の治療
慢性腎臓病や高血圧のほか、高脂血症などの生活習慣病は動脈硬化を生じやすい疾患です。これらの病気をきちんと治療し、動脈硬化を起こさないことが大切です。網膜や黄斑に浮腫が生じた状態の場合、まずは抗VEGF治療やレーザー光凝固術などで新生血管の生成や増殖をコントロールする療法を行います。レーザー光凝固術は、熱を加える療法ですので、どうしても周辺組織などに影響を与える可能性がありますが、抗VEGF療法は周辺組織に影響のない安全な療法といえます。
強度近視(病的近視)
強度近視は失明する可能性もある深刻な状態ですから、近視が進んで眼鏡やコンタクトレンズを変買い替える際には必ず眼科専門医で検査を受けてください。
強度近視は、角膜から網膜までの眼軸長といわれる奥行きが極端にのびた状態でおこります。そうなると網膜組織を含む眼底がひっぱられた状態になり、さまざまな弊害がおこることがあります。このような状態になるのが病的近視という疾患です。
軸長が伸びてしまう原因はまだ解明されていませんが、遺伝的なものや環境的なものに影響されているのではないかと考えられています。
強度近視(病的近視)の治療
健診などで強度近視を指摘された場合、障害が現れていない段階でも、定期的に検査を受けるなど、経過観察が必要です。様々な障害が現れはじめたら、それぞれの症状に合わせた治療を行います。特に眼底が障害をうけ、新生血管が生じた場合には、抗VEGF療法やレーザー光凝固術による新生血管の処置を行います。
レーザー光凝固術はどうしても熱によって周辺組織への影響があるため、抗VEGF薬の硝子体注射のほうが安全に治療を行えます。
症状が進んで網膜剥離や近視性牽引性黄斑症などを発症した場合には、網膜復位などのため硝子体手術を検討することになります。